進化する肝動脈化学塞栓療法と肝動注化学療法

肝臓がんは、がんで亡くなる方の部位別順位で第5位。
年間3万人以上の命を奪っています。
原因の約 85 %はウイルス性肝炎。 血液検査と肝機能検査で、ハイリスクの方を特定でき、予防可能ながんでもあるのです。
万一発症しても、治療の選択肢がいろいろあり、近年は寛解・延命の成績も上がってきました。
イムス札幌消化器中央総合病院で肝臓病センター長を務める葛西和博先生に先端の治療法を伺います。

 

肝臓がんの原因はウイルス性の肝炎

2014年の4月から消化器内科の中に「肝臓病センター」が開設されました。どのような役割を担っているのですか?

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肝臓がんの〝駆け込み寺〞でしょうか。まずは予防として、最大の原因となる慢性肝炎の早期発見と治療。市民の皆さまへの啓蒙活動も行います。
 
肝臓がんで受診された方には、最新の治療を積極的に導入し、根治を目指して共に闘います。たとえステージが進み、他の病院で難しいと診断された患者さまでも、必ず打つ手はある。希望を捨てず、生活の質を改善し、2年、3年とサバイバルしていただくことが目標です。

 

頼もしいですね。原因の慢性肝炎とはどんな病気ですか?

肝臓がんの約 85 %は、B型あるいはC型のウイルス性肝炎が原因です。ウイルスの持続感染による炎症で肝細胞が線維化し、慢性肝炎から肝硬変に移行。さらにがん化します。幸いどちらの肝炎にも新薬が登場し、特にC型は近い将来ウイルスを完全に除去できる目途が立ちました。B型も不活性化できますし、早期に発見すれば肝臓がんを未然に防げるのです。感染の有無は血液検査でわかるので、各自治体が行う無料検診を必ず受けましょう。 

 

残りの 15 %は?

お酒の飲み過ぎによるアルコール性肝炎と、近年増えているのが「NASH(ナッシュ)」。飽食の時代を背景に、脂肪肝ができ炎症を起こすタイプの慢性肝炎です。糖尿病や脂質異常症のコントロールで十分改善できますよ。

 

治療の第一選択肢は、やはり手術

では、肝臓がんの治療について教えてください。

もっとも確実にがんを除去できるのは手術です。肝機能が基準以上で門脈に浸潤がなく、個数が少ないなどの条件がありますが、当院の消化器外科では、15 〜 20 センチの大きな腫瘍も積極果敢に切除を行っています。
 
肝臓は化学工場と呼ばれるように、栄養の代謝や、胆汁の産生、毒素の解毒・排泄に働く重要な臓器ですから、肝不全を起こせば命取りになる。肝庇護療法で治療に耐えられるコンディションにもっていくのが、内科医の最初の仕事ですね。

 

ラジオ波焼 しょうしゃく 灼療法とは?

病変部に針を刺して電流(ラジオ波)を流し、その熱でがん細胞を熱凝固させる治療です。原理は電子レンジと同じだと考えてください。基本的には3センチ以下・3個以下の腫瘍が対象。超音波画像で位置を確認しながら行います。体への担が少なく何度でも受けられるので、再発しやすい肝臓がんに適した治療といえるでしょう。
 
ただ腫瘍近傍に血流があると、十分な発熱が起らないので、近くの血管の塞栓が必要なケースがありますし、針を適切な位置に刺すのは簡単ではありません。経験豊富な医療機関で受けてほしい治療です。

 

進化が著しい肝動脈化学塞栓療法

先生は「肝動脈化学塞栓療法(TACE)」の第一人者だそうですね。難しい治療なのですか?

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肝臓に酸素や栄養を届けている血管は、心臓から来る肝動脈と、小腸や大腸から来る門脈の2本です。正常な肝臓は門脈から7割、肝動脈から3割の血流を得ていますが、肝臓がんは100%肝動脈に頼っています。ですから肝動脈から分岐し腫瘍につながる血管を見極めて、そこから抗がん剤を送り込み、さらにその血管を塞いでしまえば、がんを兵糧攻めにできるわけです。
日本で生まれた治療法で、肝切除、ラジオ波と並ぶ三大療法として世界に広まりました。

 

正常組織へは門脈からの血流があるので、ほとんど影響を受けないのですね?

はい。X線透視下で、脚の付け根の動脈から肝臓の腫瘍に向かってカテーテルを挿入します。肝動脈のほか、横隔膜や肋間に行く血管からも栄養をもらっていることがあるので、その確認が大切です。
 
ここで、がん細胞に確実に抗がん剤を届ける工夫が二つあります。一つは、腫瘍の手前の血管をマイクロバルーンで閉塞しておくこと。薬剤が逆流することがありません。もう一つは抗がん剤を油性の造影剤に溶かして使用すること。シスプラチンという粉末の薬剤ですが、水性の14 倍もがん細胞に留まる作用があるとされています。

 

血管はどんなもので塞ぐのでしょうか?

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0・1ミリほどの微細な球状ビーズです。腫瘍(がん)の中にまで入り込み、壊死させる働きもあります。以前は1ミリほどのスポンジを使用していたので、がん手前で詰まり、がんが他の血管を呼び込んで生き延びることがありました。このビーズは2014年の2月に認可され、ぐんと成績が上がっています。

 

何本もの血管を塞ぐには、何時間もかかりそうです。

熟練した医師であれば、約1時間。入院は1週間ほど。抗がん剤が全身に回ることがないので、副作用がほとんどないのが利点です。ただし、がんが進行して門脈本幹まで浸潤すると、肝動脈を塞ぐTACEは使えません。

 

進行肝がんの切り札肝動注化学療法

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でも、奥の手がある?

「肝動注化学療法」といいます。脚の付け根の動脈から肝臓の腫瘍までカテーテルを留置し、持続的に抗がん剤を流し込むのです。脚の付け根にはリザーバーといって、点滴とつなぐ器具が埋め込まれています。

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肝臓は、縦横に血管が張り巡らされた臓器ですから、そこからがん細胞に向う血管を選別すれば、効率よく叩けるわけです。
 
使用する抗がん剤は5FU(フルオロウラシル)とシスプラチン。4週間をワンクールとし、5FUを週5回、シスプラチンは週1回のみ、点滴を行います。シスプラチンの代わりに、肝炎の治療薬であるペグインターフェロンの注射を併用することもできます。

 

延命効果が高いのですね。

何の手も打たなければ余命は半年です。全国の他施設の平均では 18 ヵ月程度、しかし我々の施設では、なんと平均30 ヵ月です。進行肝がんと闘う、当センターの最後の砦といってよいでしょう。

 

これも日本発の治療法とか。

日本人は手先がとても器用なので、開発できた治療法です。肝動注化学療法では、抗がん剤を流し込むだけでなく、それが他の臓器へ回らないよう、周辺の血管を何本も金属コイルで塞ぐ必要があります。抗がん剤は細胞分裂を抑え込む薬ですから、たとえば膵臓に入ってしまったら、膵臓が壊死してしまう。繊細な作業を要求されるので、世界標準の治療にはならないかもしれません。

 

もったいないですね。海外では代わりにどんな治療を行っているのですか?

抗がん剤のソラフェニブの服用です。がん細胞独自のタンパク質を選別して働きかける分子標的薬と呼ばれるもので、正常細胞への影響が少ないと言われますが、実際に使うと掌や足の裏が赤くはれる副作用が気になる。当院では他の臓器への転移がある場合に、プラスして使うケースが多いですね。

 

いろいろな治療法を組み合わせるのですか?

はい。患者さまの症状に合わせて、オーダーメイドの治療を工夫するのが我々の仕事です。手術で取り切れなかった腫瘍をラジオ波で焼く。TACEもラジオ波で補うこともあれば、肝動注化学療法との併用が望ましいこともある。また、原発性の肝臓がんと、他から肝臓へ転移してきたがんとでは、まったく性質も治療法も異なります。
 
患者さまそれぞれの年齢やライフスタイル、価値観も踏まえながら、納得のいく医療を提案し、がん闘病の良きパートナーでありたいと願っています。

 

医療法人社団明生会 イムス札幌消化器中央総合病院
〒063-0842 北海道札幌市西区八軒2条西1-1-1
TEL.011-611-1391 http://www.ims.gr.jp/kotoni/

◎記事内容に関するお問合せ:地域医療連携室 TEL.011-555-2770

イムス札幌消化器中央総合病院
肝臓病センター長・消化器内科部長
葛西 和博(かさい かずひろ)医師
日本内科学会(認定医、指導医)、日本消化器病学会(専門医)、日本肝臓学会(専門医、東部会評議委員)、日本消化器内視鏡学会(専門医)、日本救急医学会(専門医)、日本がん治療学会(認定医・教育医)

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