子宮内膜症と子宮筋腫の最新治療 東京腎泌尿器センター大和病院

女性の自然な生理現象である月経のたびに、 強い痛みなど不快な症状を伴う月経困難症。 一番の原因疾患は「子宮内膜症」と「子宮筋腫」です。
命にかかわる病気ではありませんが、 QOL(生活の質)を大きく低下させ、不妊を招くことも。
最新の治療について、東京腎泌尿器センター大和病院の レディースセンター長・婦人科部長である 有田白峰医師にお話を伺いました。

 

子宮内膜類似組織が周辺臓器で増殖する「子宮内膜症」

20~40代の女性に「子宮内膜症」が増えていると聞きます。どんな病気なのでしょうか。

子宮の内側にある子宮内膜は、妊娠に備え、女性ホルモンのエストロゲンの作用で厚みを増します。しかし受精卵が着床しなければ不要になりますから、剥がれ落ちて排出される。これが毎月の月経ですね。子宮内膜症は、この子宮内膜のような組織が子宮の内膜以外の場所に発生し、月経と同じサイクルで増殖・出血する病気です。

 

子宮内膜以外の場所とは?

一番多いのが卵巣です。出血した血液がチョコレート状に溜まって卵巣が腫れ、「チョコレート嚢のうほ胞う 」と呼ばれます。次に多いのが子宮の筋層内に発生する「子宮腺筋症」。子宮周辺の腹膜、特に、子宮と直腸の間のダグラス窩か腹膜にできる例も見られます。極めてまれですが、肺や腸、おへそや鼠径部など、子宮や卵巣と離れた場所にできる内膜症もあります。

 

なぜ、そのような場所に子宮内膜症ができるのですか。

経血が子宮から卵管を通って逆流し、腹膜や卵巣に移植されるという説、あるいは体腔上皮細胞が子宮内膜に化生するという説がありますが、正確なメだ、月経サイクルに伴って卵巣から分泌されるエストロゲンが、子宮内膜症の誘因となります。
現代女性は初経が早い一方、晩婚・少産の方が多い。妊娠や授乳で月経が止まる期間が短いため、初経が遅く、早婚・多産だった時代の女性と比べて、生涯に経験する月経の回数が格段に増加していることが患者数増加の原因の一つと考えられます。

 

どんな症状がでますか?

まず、重い月経痛が特徴です。また、卵巣や腹膜、腸などの内膜症性癒着により、月経時以外にも、腹痛や腰痛、排便痛、性交痛などが見られます。また、不妊症の原因になることもあります。子宮腺筋症は、後述する子宮筋腫と合併することも多く、月経の量が多量で、レバーのような血の塊が出るなどが特徴。いずれも徐々に進行していきます。

 

診断はどのように?

初めに、経腟超音波検査および内診または直腸診にて、チョコレート嚢胞や子宮腺筋症などの内膜症性腫瘍の有無や大きさ、性状、癒着の有無や程度、圧痛(押して痛いかどうか)を診ます。腫瘍を認めた場合は、さらにMRI検査も行います。血液検査では貧血の検査や腫瘍マーカーCA125とCA19-9の数値が診断の一助になります。

 

ライフスタイルに合わせ治療法を選択

治療法について、具体的に教えてください。

症状の程度や病変部位、年齢、出産の予定など患者さまのライフスタイルを考慮し、希望を伺って選択していきます。さまざまな薬物療(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)を月経痛が始まる前から服用すると、より効果的です。

ホルモン療法には主に
①LEP(エストロゲンと黄体ホルモン※の低用量配合剤=低用量ピル)
②黄体ホルモン療法
③偽閉経療法 の3つがあります。

LEPは、排卵と子宮内膜の増殖を抑制し、月経の痛み、出血量を軽減します。内膜症の進行を抑えたり、子宮内膜症発症予防の効果もあるといわれています。若い方にはまず最初におすすめしたい治療法です。まれに血栓症の副作用があるため、特に40代以上の方の使用は慎重に行わなければなりません。

黄体ホルモン療法はLEPよりも子宮内膜症を改善させる効果が高い方法です。痛みは非常に軽くなりますが、不正出血は起きやすくなります。内服薬≪ディナゲストTM≫と子宮内黄体ホルモン放出システム≪ミレーナTM≫があります。ミレーナTMは平成26年9月から過多月経に対して保険適応になりました。一度子宮内に挿入すれば、5年間効果があります。

偽閉経療法は性腺ホルモンの司令塔である脳の下垂体に働きかけて、卵巣からの女性ホルモン分泌を止め、人為的に閉経状態を作ります。一ヵ月に一回、GnRHアナログという薬を注射します。子宮内膜症に対する改善効果は最も高い薬物療法ですが、のぼせ、めまいなどの更年期障害や、骨粗しょう症を起こすリスクがあり、6ヵ月以上の継続治療はできません。子宮内膜症や子宮筋腫の手術をする前に、病巣を小さくする目的で行う例も多いですね。
その他、漢方薬や抗アレルギー剤の内服で内膜症の痛みを抑える方法もあります。

 

 

手術もあるのですね。

はい。癒着を剥がして病巣だけを切除し、子宮・卵巣などの臓器を温存する手術と、子宮、または病巣のある側の卵巣を摘出する手術があります。手術の手技としては、開腹手術と腹腔鏡下手術の2タイプ。

後者は腹部に3~4ヵ所、1センチほどの小さな創口を開け、カメラや操作鉗かんし子などの器具を挿入してモニター画面を見ながら行うもので、痛みや感染、術後の癒着のリスクが少なく、入院期間も短いことが利点です。また、傷が小さく目立ちにくいので、美容的にも優れています。

一方、開腹手術は下腹部を5~12センチほど切開します。術野が広く、手術操作が容易です。癒着が強いと開腹をすすめられることが多いのですが、当院では腹腔鏡下手術を積極的に実施しています。子宮内膜症は命にかかわる病気ではありませんから、手術をするかしないか、どの手術を選ぶかは、できるだけ患者さまの意向を尊重しますが、6センチ以上のチョコレート嚢胞、不妊症、月経困難が強く、薬で改善しない場合は手術することをおすすめします。

また、チョコレート囊胞は、0.7%ほどが卵巣がんに移行するという報告があります。閉経後はチョコレート囊胞が縮小し、痛みなどは軽減しますが、がんについては、油断は禁物です。定期検診を欠かさないようにしてください。

 

 

子宮にできる良性腫瘍「子宮筋腫」

子宮筋腫も、女性に多い病気なのですね。

子宮筋にできる良性の腫瘍です。成人女性の2~3割にあるといわれますが、辛い症状があって治療を必要とするのは、その一部の方。がん化する心配はまずありません。
できる部位によって、漿しょうまくか膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫に分類されます。筋腫のできる部位や大きさ、数によって無症状の方から、非常に症状の強い方まで様々です。粘膜下筋腫の場合、小さいものでも過多月経、それに伴う鉄欠乏性貧血、不妊、不正出血などが起こりやすくなります。月経困難症が起こることもあります。
漿膜下筋腫の場合は、小さいうちはあまり症状が出ませんが、大きくなると仙骨、膀胱、尿道、大腸などを圧迫し、腰痛や排尿障害、便秘の原因となります。検査は子宮内膜症とほぼ同じです。

 

治療法は?

対症療法としては貧血に対し、造血剤(鉄剤)の内服。子宮筋腫の成長にも、エストロゲンが関係していますから、筋腫を小さくするには、偽閉経療法が有効です。ただ、半年間しか行えませんので、若い方の場合は、治療後月経が再開するため、数ヵ月で元の状態に戻ってしまう可能性が高いです。
40代後半から50代になり、本当の閉経が近い方には効果的です(閉経逃げ込み療法)。

 

症状が重い場合には、手術を検討するのですか?

はい。閉経がまだ遠そうで、逃げ込み療法が期待できない方の場合は、手術をおすすめします。筋腫だけを切除し、子宮を温存する筋腫核出術と、子宮ごととる子宮全摘術があります。当院では子宮筋腫に対しても、積極的に内視鏡手術を行っています。筋腫の大きさや個数によっては開腹手術となることもあります。

また、粘膜下筋腫の場合は、おなかに傷をつけることなく、腟からアプローチする子宮鏡下手術が可能です。これは、術後の痛みもほとんどないので、手術の翌日に退院し、直ちに社会復帰できます。

 

UAEという治療法があるそうですが。

子宮動脈塞栓術ですね。子宮筋腫は、子宮動脈から栄養を得ていますから、これを塞いで”兵糧攻め”にし、筋腫を萎縮させようという治療です。
脚の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、X腺透視下で、左右2本の子宮動脈にスポンジ状のゼラチンを注入し、閉塞させます。局所麻酔で、所要時間は1時間ほど。3~5日の入院で済みます。今年から健康保険の適用となりました。

FUS(集束超音波療法)も新しいタイプの治療法です。MRIで病巣を確認しながら、高周波の超音波を照射し、熱エネルギーで筋腫の細胞を壊死させるもので、痛みもなく、通院治療が可能です。
ただし、どちらも将来出産を望む方にはすすめられません。

女性の生活の質を守るために、様々な治療があるのですね。
ありがとうございました。

 

医療法人財団明理会
東京腎泌尿器センター大和病院
〒173‐0001 東京都板橋区本町36-3 
TEL.03-5943-2411 http://www.ims.gr.jp/yamato/

◎記事内容に関するお問合せ:地域医療連携室 TEL.03-5943-2411(代表)

東京腎泌尿器センター大和病院
レディースセンター長・婦人科部長
有田 白峰(ありた しらね)医師

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