進化する脊椎疾患の低侵襲手術 高島平中央総合病院

厚生労働省の調査によれば、女性の11.8%、男性の8.9%が「腰痛」を訴えているとされ、まさに国民病の一つです。
主な原因に、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)などの脊椎疾患がありますが、近年は身体への負担が少ない「低侵襲手術」が次々と考案され、注目されています。
その詳細を高島平中央総合病院整形外科部長の明石裕地先生にうかがいました。
30~50代に多い椎間板ヘルニア
突然、腰に激痛が
先生は脊椎疾患の手術がご専門とうかがいます。具体的にはどんな病気が対象ですか。
皆さんがよくご存じの疾患としては、30~50代の働き盛りに多い「椎間板ヘルニア」ですね。高齢者では「脊柱管狭窄症」や、中高年の女性に多い「脊椎すべり症」、骨粗しょう症が原因となる「椎体(ついたい)圧迫骨折」などが挙げられます。
椎間板ヘルニアとは?
私たちの背骨(脊柱)は、脊椎(椎骨)という小さな骨が積み重なって形成されています。脊椎と脊椎を連結し、背骨がしなやかに曲がるようクッションの役割を果たしているのが「椎間板」です。
椎間板は、「髄核(ずいかく) 」というゲル組織を線維輪(せんいりん)が包んでいますが、無理な姿勢で重いものを持つなど強い力が加わると、中の髄核が飛び出してしまう。これが椎間板ヘルニアです。
腰に激痛が走り、動けなくなってしまいますね。
脊椎の中央には「脊柱管」という穴が空いていて、その中を「脊髄(せきずい)」(腰椎から下は馬尾(ばび)神経と呼ぶ)が通っています。脊髄は脳の指令を手足など体の各部に伝えると同時に、各部が感じた”痛い””熱い”などの知覚情報を脳に送る大切な中枢神経なんです。これをヘルニアが刺激するために、強い痛みを感じるわけです。お尻や下肢が痺れるように痛む坐骨神経痛も併発します。
そこで、ヘルニアを除去する手術が・・・
ヘルニアの多くは半年ほどで自然消滅しますから、必ずしも手術の必要はないんです。安静を保ち、消炎鎮痛剤の服用や、刺激されている神経根に麻酔薬を注射する「神経ブロック」などの保存療法で、通常は治まってしまうものなんです。
ですが「一日も早く仕事や家事・スポーツなどの社会生活に復帰したい」「痛みが長引いて困っている」「再発を繰り返す」など、患者さまの強い希望がある場合には手術を検討します。
ただし、椎間板ヘルニアで排尿・排便障害が表れた場合は緊急手術が必要です。放置すると機能が回復しなくなるため、至急専門医に受診してください。
内視鏡を使う、椎間板ヘルニアの新しい手術法
新しい「低侵襲手術」とはどのような手術ですか?
MED(内視鏡下椎間板摘出術または除圧術)とPELD(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)の2種類があります。
どちらも背中から脊椎に細い外套管(がいとうかん)を1本挿入し、そこから内視鏡と鈕かんし子などの手術器具を入れてヘルニアを切除するものです。
かつて脊椎の手術は、脊髄を傷つけないよう、皮膚を広く切開して筋肉を剥がし、骨も大きめに削って、直視下で行うのが一般的でした。すると病変部は除去できても、剥がした筋肉が委縮して痛む、背骨がグラつく、などのデメリットがあります。
その場合は背骨を金具で固定する手術も必要になります。MEDやPELDの低侵襲手術は、脊髄は無論のこと、正常な骨や筋肉、靱帯 などを極力温存するために考案された手術なんです。
MEDとPELDの違いは?
主に器具の太さの違いです。MEDは約17ミリ、PELDは約7ミリの皮膚切開で管を挿入できます。スリムなPELDは、脊髄から分岐した神経が通る椎骨の隙間(椎孔(ついこう))からもアプローチできるので、この場合は骨を削る必要がなく、また神経に触れることもありません。MEDとPELDは、ヘルニアの位置、大きさ、固さなど症状に応じて使い分けています。
手術時間はどのぐらい?
共に1時間〜1時間半程度。傷口が小さいので痛みや出血が少なく、入院期間はMEDで1週間、PELDなら1日と短期間で済み、社会復帰がスムーズです。ただ、ヘルニアの症状や脊柱管の状況によっては、適応にならないケースもありますから、一度ご相談ください。
脊柱管狭窄症や椎体圧迫骨折にも低侵襲な治療法
脊柱管狭窄症とは?
加齢のため椎間板や椎骨、靱帯が変形したり腫れたりして脊柱管が狭くなる疾患です。脊髄が圧迫されて足腰が痺れるように痛み、休み休みしか歩けない、といった症状が出てきます。これもMEDやPELDによって骨の病変部を切除・除圧する治療が有効ですね。
手術で背骨がグラつくことはありませんか?
骨の切除が大きい場合は、金具(スクリュー)を刺入して固定したりする固定術を合わせて行います。
これも従来は背中を切開する大掛かりな手術が主流でしたが、現在は小さな穴を数ヵ所もうけて、器具を挿入する低侵襲手術が徐々に広まってきました。PPS(経皮的椎弓根スクリュー法)とCBTS(皮質骨軌道椎弓根スクリュー法)の2種類が開発されています。どちらもレントゲン透視と内視鏡を組み合わせて手術します。脊椎の位置がズレる「脊椎すべり症」の治療にも活用されています。
椎体圧迫骨折の治療も、低侵襲でできるのですか?
はい。骨粗しょう症などで脆くなった椎骨が潰れた場合に行われます。特殊な針を背中から椎骨に刺入し、バルーンをふくらませて骨を復元。中に骨セメントを注入して骨を強化するBKP(バルーン椎体形成術)という治療法で、痛みを緩和する効果も高いとされています。
今回ご紹介した低侵襲手術は、いずれも健康保険が適用され、実績もありますから、ぜひ当院にご相談ください。
脊椎疾患の治療はまさに日進月歩なのですね。
ありがとうございました。
医療法人社団明芳会
高島平中央総合病院
〒175-0082 東京都板橋区高島平1-69-8
TEL.03-3936-7451
http://www.ims.gr.jp/takashimadaira-hosp/
移転後所在地:東京都板橋区高島平1-73-1
◎記事内容に関するお問合せ:地域医療連携室 TEL.03-3936-7451(代表)
高島平中央総合病院は2014年12月に新病院としてオープン!
板橋区における救急医療の中核病院として地域医療に貢献する高島平中央総合病院は、さらなる医療の充実をめざし、16の診療科を持つ、10階建ての新病院として生まれ変わります。高度医療機器の導入や関節・脊椎センター、消化器センター、脳神経センターなどを整備して専門医療の質を高めるとともに、人工透析室やリハビリテーション室もより強化されます。

日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医
高島平中央総合病院
整形外科 部長(脊椎)
明石 裕地(あかし ゆうじ)医師